『ジャンゴ』 あるいは19世紀アメリカ南部におけるおとなのけんか

3月1日、金曜日、二条にて。初日でした。タランティーノの新作公開ということで、顔を紅潮させた青年たちが劇場へと集っておりました。それにしても、作品一覧を見るにつけ、おもしろくない映画が一つもないってなんたるフィルモグラフィー!デビュー作の『レザボア・ドッグス』時に10代序盤だった自分にとっても、20年もの間ずっと同時代に生きている実感のある唯一の映画作家だと思います。僕のお気に入りは『ジャッキー・ブラウン』と『イングロリアス・バスターズ』。

というわけで今作、端的に言えばめちゃくちゃ最高!でした。タランティーノ作品の特徴の一つに、登場人物のキャラクターがやたらめったにたっているというのがあると思いますが、今回も楽しかったです。ジェイミー・フォックスクリストフ・ヴァルツレオナルド・ディカプリオサミュエル・L・ジャクソンというメインキャストにあたる4人はすべからく魅力的でした。四者が奴隷売買交渉のため食卓を囲むシーンが後半のハイライトでしたが、スリルとウィットを両立させた会話の応酬には昨年の『おとなのけんか』を思い出したり。演技を見ることのおもしろさを髄まで味わせてくれるシークエンスでした。

僕自身は悪役の二人、ディカプリオとサミュエル・L・ジャクソンにすっかりロックされたのでした。サミュエルはもう、出オチの爆発力がすべてのシーンで奇跡的に続いているようなおかしさで、糞爺を楽しそうに演じていました。そして、ディカプリオはほんとによかった!ここ最近は、まるで世界の不幸をすべて背負っているような重たい演技が多く、賞レースでの不遇もあいまって、陰鬱さのなかにいる印象でした。好きな俳優で個々の演技も間違ってないだけに、ディカプリオさん大丈夫かな?眉間の皺はいつかとれる日がくるのかな?と心配していたのですが、今作はまるで憑物がとれたようで悪い大富豪キャンディを嬉々として演じていました。

ディカプリオ次作の『華麗なるギャツビー』が、またしても眉間皺寄せ演技くさいので、まだ心配はとけませんが、久しぶりに元気な彼を見れて、良かったです。なので、これでオスカーとってほしかったな。それにしてもディカプリオは、何度女で苦労すれば気がすむのか!

と言いつつも、クリストフ・ヴァルツのオスカー受賞にはなんら不満がなくて、それはやはり映画内で一番印象的なアクションは彼が起こしたものだったからです。一貫してローリスク・ハイリターンという原則で動いてきた人間が、制御できずエモーションを爆発させる瞬間がとてつもないカタルシスでした。そして、その行動が彼の芯にある正義に基づいていることこそが、この映画が喚起する驚くほどにまっとうな感動の真髄なのだと思います。友達全員に勧めたくなる作品でした。最高!