『奪命金』 一つの怪物が香港を徘徊している――金融危機の怪物が

2月25日、月曜日、心斎橋にて。日本での全国上映としては『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』ぶりとなる、ジョニー・トー監督の新作。2011年の東京フィルメックスで上映された際には、高い評価を受けていたのでとても楽しみにしていました。

黒社会に生きる男たちのノワールを、もはやマジック・リアリズムの領域に達したような映像美で描いた『エグザイル 絆』や『冷たい雨に撃て、約束の縦断』といった、これぞジョニー・トーと言いたくなるラインの諸作とはまた異なった、監督の市井の人々への眼差しがうかがえる作品でした。3人の主人公が、ギリシアを発端として2009年のEU金融危機と1つの殺人に翻弄される。さて、なにをさしおいても、主人公の1人、気のいいヤクザを演じたラウ・チンワンです。とにかく、この男のすべての挙動が愛おしい。頭はどちらかと言えば良くないが、仲間のためには精一杯できることを惜しまない人情派。いずれの振る舞いもどこかズッコケ感が漂っており、つい笑ってしまうものの、その愛らしさやまっすぐさに不意に泣きそうになってしまう。パウという名前も、犬みたいな表情とあいまって可愛さ満点でした。

パウ以外の2人の主人公も、職務に精を出す刑事(とその妻)、成績の悪い女性銀行員と、いわゆる普通の人々です。彼らも、映画のなかで、親を亡くした子を迷わず引き取る、リスクの高い投資を一般の人に勧めることに抵抗を感じているなど、優しさや弱さが描かれています。金融とは世界を徘徊する顔なきモンスターです。商品としては実体のないものでありながら、経済の空気を支配し、時に嵐を巻き起こす。ジョニー・トーは今作で、その暴雨風へと登場人物を曝すことで、顔ある人々の尊さを浮き彫りにしたのではないでしょうか。