『脳男』生田△

2月12日、火曜日、天神にて。連続爆破テロ事件の容疑者として捕まえられた1人の男、鈴木一郎。警察と精神科医は取り調べを続けていくうちに、彼が並外れた知能と身体能力を持ちながらも、一切の感情がない人間=脳男だと気づく。一方真犯人もこの脳男にただならぬ興味を持ち始めていた…というはなし。

脳男は悪を裁くために徹底教育された、殺人正義行使人です。感情のない人間に善悪の倫理的判別が可能なのかというそもそもの疑問は置いといて、いわば脳男は観客へ向かって「この正義は正しいのか」と問いかける存在であります。つまり、脳男は、観る人間から疑問や反発を喚起させながらも、同時に抗えないほどに魅了してしまうような圧倒的カリスマ性がなければなりません。その意味で、今回の生田斗真はものすごくよかったです。鍛えぬかれた細マッチョなバディと、美しさとイノセンスを同居させたルックスは、とにかくこの人をもっと見ていたいと思わせる存在感に溢れていました。『悪の教典』での伊藤英明といい、異様な眼力のある俳優はそれだけでスクリーン映えしますね。

ちょっと物足りなさを感じたのは、上のしかるべき条件を十二分に満たしながらも、生田斗真のアクション・シークエンスがあまりないこと。また、脳男の比類なき殺傷能力を示すには、VS無数の雑魚という場面は絶対必要だったと思うんですが、そうしたシーンがなかったのも燃えの面では不足を感じました。つねに主要人物のみで物語が動いているため、映画としてのスケールもこじんまりとした印象になっているんですよね。生田斗真にはもっと大暴れしてほしかったです。

映画にはもう一つの軸として、松雪泰子演じる精神科医の研究である「犯罪者は更正できるのか」というテーマも展開されているのですが、それは脳男の為す正義的殺人とは対称となる考え方です。ゆえに、松雪泰子を通じて脳男と対峙するのは、最終的には染谷将太扮する元少年異常犯罪者となっているのは間違っていないのですが、そのぶん二階堂ふみの真犯人がぼやっとした位置づけになってしまい、損な役回りになってしまっている気がしました。染谷くんと二階堂さんの役は一人にまとめるほうがよかったし、特に後者は熱演しながらも、よくわからない犯人像となってしまってるのがもったいなかった。