『アウトロー』僕らがトムを愛す理由

2月11日、月曜日。天神にて。トム・クルーズが主演。ピッツバーグ近郊で5人が殺害される無差別乱射事件が発生。容疑者として一人の男性が逮捕されるが、男はだんまりを決め込んだまま。唯一男が記したメモにはこう書かれてあった。「ジャック・リーチャーを呼んでくれ」

当然のようにジャック・リーチャーを演じるのはトム・クルーズである。それには必然があると感じました。なぜならこの映画は、僕たちがどうしてかくもトム・クルーズに魅了され続けているのかという問いにジャック・リーチャーという役を通して、自ら答えを示した作品だからです。

現代の映画界においてトム・クルーズほど誰もがスターと認める存在はないのではないでしょうか。もちろんディカプリオやデップなど、以降もその時々にトップとなったアクターはいます。が、30年にわたって娯楽大作の主演をはり続け、その結果あらゆる世代の人々からスターと愛される映画俳優はこの人以外にいないのでは。年輪を重ねてなお、人気が陰ることはおろか、名バイプレイヤーに転身して一線を退いたりする気配もない、これってすごいことだと思いますが。また、甘い笑顔はもちろん、その華やかな存在感は、今時珍しいくらいに銀幕のスターという言葉がぴったり。近年の『デイ&ナイト』なんかは、トム・クルーズという人の放つ煌めきなしには説得力を持ちえない、古風のゴージャスさが散りばめられた映画でした。

一方、演技者として認められてないわけではないのですが、オスカーは数度ノミネートされつつも授賞にはいたらず。けれども、そんなところも、敗北を心のどこかに抱えていつしか生きるようになったすべての人たちにとって、共感してしまう理由の一つなのだと思います。

今回のジャック・リーチャー役はみんなのこうなりたいと思えるトム・クルーズが象徴されているように感じました。ミッション・インポッシブルのイーサン・ハントほど人並みはずれた超人でなく、自分の延長として憧れられるような。女性からは自然に笑顔を向けられ、男性からは仲間になりたいと思わされる。中盤の警察に追われるリーチャーを名もなき市民が不自然なほどに自然と匿うシークエンスは、トム・クルーズという男への大衆からの親愛に満ちた眼差しを体現していました。なにより、アウトローという社会から逸脱した存在でありながら、その実はしごくまっとうな正義感を持った人間であることが示されるラストシーンが素晴らしい。ジャック・リーチャーという役でトム・クルーズは人々のこうあれたらという願望を映していました。そして、それは僕や、おそらくあなたにとっても、つねにできるわけではない、でもそうすることをあきらめずにいたい、人間の善きおこないへの意志を表しているのだと思います。