『ソハの地下水道』わがままで複雑、だからとてつもなくチャーミング!

1月22日、火曜日、烏丸にて。第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を描いたポーランド映画でした。悪名の高いアウシュビッツ収容所はポーランドにあったことが知られてるように、40年代前半のかの国はホロコーストの凄惨な嵐が吹き荒れていた。映画は、ひょんなことから10人近くのユダヤ人を下水道に匿うことになった水道工ソハを中心にしつつも、地下水道に暮らすことになるユダヤ人を丹念に描写していました。どの人物も一筋縄ではいかない魅力と複雑さがあり、そこがすごく良かった。

この映画には、聖者は存在しません。ユダヤ人を地下水道に匿うソハは、その代償にみかじめ料を彼らに要求しますし、ナチスから疑われ自分や家族の身に危険がお呼び始めると、あっさりと手を引いて見捨てようとします。その一方で、ユダヤ人の各々も極限の状況においてなお、まとまりなく各自の欲望を主張しますし、ソハへと不平不満ももたらします。それにはソハも「我儘ばかりで感謝もされない」とボヤくほどです。しかしながら、それがゆえに彼らが魅力的です。

ナチスによる、とてつもなく生理的嫌悪感を喚起させる振る舞い(ユダヤ人男性の髭をむしり取る描写の惨たらしさよ!)、くじ引きのように生死が決まっていく迫害の恐ろしさ。そして、地下水道におけるきつい・きたない・きけんのあらんかぎりに3Kな生活。とてつもなくハードでシビアな足場に立たせられながらも、あまりに人間的なおかしみを堪えた彼らの振る舞いは、そのまま人間存在のぬめりとしたしぶとさを讃えているようでした。それは個々の人格を民族と一括りにするような同調圧力に対する、芸術からの抵抗でしょう。70年前の戦時下の西欧を描いた作品ですが、今の日本にも十二分に有用たる映画だと思いました。