感想『サラの鍵』

京都シネマにて。1942年7月、フランス・パリ、ユダヤ人一斉検挙の日、少女は幼い弟を納戸に隠し鍵をかける…というのが話の起点。ユダヤ人迫害にフランス政府も市民も加担していたという黒い歴史を、フランス映画自ら描いた勇気ある作品です。自分は不勉強にしてそのことを知らなかったのですが、劇中のなかにシラクが歴史的事実と認める実際の演説があり、この数年で認知された出来事なのだと理解しました。

この映画は、過去に起きてしまったことを知ることで背負ってしまう重たい陰と、しかし、それがゆえに自分が今生きていることの、ずしりとした価値を感じえることを描いています。つまり、過去を起点としつつ、やはり現在を考えている。話のメインとなるかと思うであろう姉と弟の話は、比較的早い段階で片がつき、物語はむしろ、そのあとの話へと歩んでいきます。現代における主人公は、パリにおけるユダヤ人迫害を取材する、女性ジャーナリスト、ジュリア。彼女はひょんなことから、この姉弟と自分がコミットしていることに気づき、彼らの足取りを追っていきます。そこで、彼女は名もなき人たちの驚きに満ちた人生を辿っていく興奮と、その行為自体の傲慢さに潜む挫折もともに経験していく。

過去と現在をスムースなテンポで挟み込んでいく手腕が素晴らしかったです。絵作りの巧さを感じさせつつも、それらを主張させすぎないカットの手際の良さも見事でした。また、それらのスマートさが、映画を重厚にさせ過ぎずに、現代的な感触を持たせているように感じました。それは、過去の出来事に適切な距離感を持たせる効果を果たしていて、その絶妙なドライさらゆえに、過去と未来が現在に集束したエモーショナルなラストが非常に余韻深かったです。とても良い映画でした。


過去の主人公である子供時代のサラ。彼女の演技も素晴らしかったです。